はじめに

 私どものコンサルティングは賃金・人事に特化した、どちらかと言えば少々タイトなコンサルです。もう20年も続けていますが、私がこの仕事に関わり始めた頃と今では状況も随分と変わり、新たに出くわす問題(ご相談)もまだまだ増える一方です。
それらがコンサルティング・マインド、いわば私の好奇心を煽り立て、「惰性でコンサルは出来ない」と囁きます。
 そのような、ちょっと特殊であまり知られていない人事コンサルという仕事に携わり、東西奔走する私の思いつくままを連載いたします。

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2024年9月 2日 (月)

第五百七話 就労の増加

 この10年間で生産年齢人口(15~64歳)は600万人程度減少しています。にもかかわらず、就業者人数は400万人も増加しています。これは、これまであまり働いていなかったゾーンの人たちが働き始めたからです。すなわち、女性と高齢者の就労です。この10年間における女性の25~34歳の就業率は約12ポイント、55~64歳では15ポイント以上も増加しています。男性の高齢者も60~64歳で約12ポイント、65~69歳でも12ポイント以上増加しています。
 これは急激な増加ですが、これにより社会保険の適用者の拡大と合わせて、年金財政は一息ついたはずです。
 また、この就業者数の増加は、継続雇用の推進、最賃のアップ、同一労働同一賃金、男女雇用機会均等法、育児休業など法規制整備等の政策の成果でしょうが、急激な人不足に平均寿命のアップなど、状況要因の影響も少なくないでしょう。とくに中小企業の頑張りによる雇用の拡大は見逃せないところです。それを考えれば、中小企業を支援する施策がもう少しあっても良いかと思います。最賃アップや社会保険適用事業所の拡大は止むを得ないとするならば、せめて人材を中小企業に振り向ける施策を充実させて貰えないかと思います。

✒ お陰様で新刊の71pvvpcgol_sy385_ 重版が決定しました。コツコツと売れているようで嬉しいかぎりです。中小中堅企業の現場のリーダーのための本ですが、このクラスはこれからますます会社の鍵となって行くでしょう。その人たちのちょっとした悩みをこの本は解決してくれるはずです。

 

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2024年8月 2日 (金)

第五百六話 最賃50円アップ

 政府から最低賃金の目安が発表されました。各都道府県一律50円アップが目安で、これから各都道府県で検討され10月までに決定します。おそらく、50円超えとするところはあっても、以下はないでしょう。人不足の状況で、人材が流出してしまいかねないからです。
 大阪府で現在の1064円が1114円となります。月間所定労働時間が170時間とすると、189,380円となり、正社員の高卒初任給はこれより上げないとならなくなります。50円は約5%の昇給にあたりますから、結局、順次賃上げが必要になって来ます。
 この対応策として、中小企業は、値上げか、生産性のアップで吸収するしかないでしょうが、すぐにできるものではありません。しかも、政府は2030年代半ばまでに1500円を目指すとしています。これを本当に実行するとなると、現在の最賃の全国平均が1004円、10月から1054円ですから、これから10年間、均等にしても毎年45円程度は上がることになります。
 このままだと中小企業の多くは、仕事のあり方を変えないとならなくなるでしょう。ビジネスモデルを根底から、考え直さなくてはならない会社も出てくることになりそうです。

日本列島は記録的な猛暑日が続いています。イラストは堺Photo_20240802142101 の旧灯台ですが、カンカン照りの陽射しから逃げる場所はありません。抜けるような青い空に白い塔は映えますが、ひたすら夜が来るのを待っているように思えてしまいます。


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2024年6月17日 (月)

第五百五話 中小企業の賃上げ②

 各統計機関の中小企業の賃上げが概ねで揃いました。東京都、商工会議所、大同生命、帝国データ、フォーバルGDXリサーチ研など、いずれも3%台と言って良いでしょう。大手企業の春闘の数字は5%台で、かなりの開きはありますが、原材料、仕入価格をまだ充分に転嫁できていない中小企業が多い中では、よく頑張っている数字のように思います。言い換えれば、採用難、既存社員の確保、モチベーションアップの観点から上げざるを得ない状況とも言えます。
 日経に掲載(5/22)の二人の大学教授による2023年度分の調査では、厚生年金のデータで見ると、大手企業の数字も全体では中小企業の賃上げよりも劣っているとのことです。全体というのは春闘の数字は組合平均であり、非組合員を含める全体を見るとかなり下がるというわけです。
 数字が下がる主な要因としては、①女性比率が高くなっているが、女性の賃上げ率が低い、②高齢者比率が上がっているが、賃上げ率がかなり低いことをあげています。わたしは加えて、非組合員の管理職が入っておらず、もともと賃金水準の高い管理職の賃上げが抑えられていることが大きいと思っています。
 いずれにしても、大手の春闘の数字を追いかけることはないといえそうです。それよりも、人が採れる賃金、生産性や付加価値アップの伴う賃上げに注力すべきでしょう。

✒ 先日、わたしどものグループの会で大阪国際がんセンターのご協力により、谷四にある大阪重粒子線センターの見学会を実施しました。設備の点検のために稼働を止める、年に3回のタイミングしかない貴重な体験となりました。重粒子線というのは、炭素粒子を光の70%という高速にし治癒部位にImg_6022 照射するもので、通常の放射線と違って、身体の深部にあるがん細胞も周囲の正常な細胞に与えるダメージを少なく、死滅させることができるとのことでした。重粒子線センターは全国に7箇所あるそうですが、都会のど真ん中にあるのは大阪だけとのことです。そのような好立地につくれたのは、円形の加速器が小型化できたからだそうですが、痛みもなく、働きながら治療に通えて、保険が効く治療なら1回10万円程度らしいですから、関西に居住していて良かったというしかないですね。



 

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2024年5月 2日 (木)

五百四話 上がらない賃金の終焉

 今年は昇給の相談が多く、昇給時期が遅めのところが多い中小企業にあっては、関与先でもまだ検討が続いています。
 大手企業は5%以上とかニュースにも流れたりしていますが、今年は原材料の値上がりをなかなか転嫁できない等もあって2極化が激しく、中小企業では3%以上あれば、高い方の会社となるでしょう。
 中小企業でも新卒採用が中心のところは大変です。23年度卒で前年比2%程度だったアップだった初任給は、24年度卒では3.8%程度上がりそうです。この初任給アップはベアと同じ意味を持ちます。ベア3.8%に定昇が加われば、大手の5%以上というのも、とんでもない数字ではないということになります(ただ、初任給をそこまで上げたのも大手と言うことになりますが)。
 中小でも新卒を採るのであれば、これについて行かざるを得ません。そうすると新卒に近い者は同様に上げて行かざるを得ず、ベアがかかります。ベアの平均を下げようとすると、もともと賃金水準の高い層を抑えることになります。そうすると賃金カーブは寝ることとなり、不満のもととなったり、昇進したくない者が増えたりします。
 これを避けるには、企業は二つの選択肢をせまられることになるでしょう。一つは定昇を維持するがよりメリハリをつけ、できる人により高い賃上げをする。もう一つはJOB型給与に移行し、定昇を抑え、仕事が変わらなければ給与は上がらない体系に変える。
 社会全体がJOB型あるいは日本式JOB型に移行しない限り、中小企業の選択肢は「一つ目」しかないように思います。「一つ目」を選択すると、「定昇」「昇格昇給」「評価制度」の三つのバランスが重要になるでしょう。
 いずれにせよ、中小企業の賃金のファンダメンタルズは変わり、「上がらない賃金の時代」の終わりのはじまりとなりました。

 

 

 

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2024年3月 5日 (火)

五百三話 中小企業の賃上げ①

 日本がデフレ停滞経済から脱却し、インフレ好循環経済に転換するには賃上げが鍵で、そのまた鍵が中小の賃上げという記事を目にします。
 その中小の賃上げの鍵は価格転嫁といえますが、大阪シティ信金の2月上旬の調査では、価格転嫁できている企業が64.8%と昨年より5.8ポイント上昇しています。これは経済産業省が出している企業全体の昨年からの価格転嫁の概況とも一致しています。
 大阪シティ信金の調査は大阪府下約1000社が対象でそのうち20名以下の少人数の企業が8割を占めているデータです。それを思えば、価格転嫁もジワリと浸透している感があります。
 業種別では製造業65.3、卸売業70.4、小売業61.4、サービス業69.3とまずまずの数字ですが、もっとも末端の運輸業が50.7と低いのがやはり気になります。ここが上がってくれば、中小の賃上げも勢いがつきそうですが、鍵となる内需がもう一つでモノの動きがまだ悪いようです。もう少し時間がかかりそうですが、4月から始まる労働時間規制の影響が最後の鍵となりそうです。

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