はじめに

 私どものコンサルティングは賃金・人事に特化した、どちらかと言えば少々タイトなコンサルです。もう20年も続けていますが、私がこの仕事に関わり始めた頃と今では状況も随分と変わり、新たに出くわす問題(ご相談)もまだまだ増える一方です。
それらがコンサルティング・マインド、いわば私の好奇心を煽り立て、「惰性でコンサルは出来ない」と囁きます。
 そのような、ちょっと特殊であまり知られていない人事コンサルという仕事に携わり、東西奔走する私の思いつくままを連載いたします。

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2025年1月12日 (日)

五百十話 退職の理由

 昨年末にも複数の会社から社員の離職の相談が続きましたが、最近は入社後の退職だけでなく、勤続10年などの中心戦力のベテラン社員の思わぬ退職などが増えています。
 昨年末のエン転職の退職調査レポートで、「伝えなかった本当の退職理由」のベスト5は、①職場の人間関係が悪いため ②給与が低いため ③会社の将来性に不安を感じたため ④社風。風土が合わないため ⑤評価・人事制度に不満があったため と、なっています。これは、わたしどもの実感とも概ね一致します。
 このところの相談のベテランの離職要因は、①給与 ②将来の生活設計 ③仕事や責任と評価・それに見合う給与とのアンバランス が共通してあるように思います。いわば、「賃金水準と賃金の見せ方」が鍵のように思われます。
 三井住友銀行が初任給30万円、ユニクロが33万円を打ち出すなど、年初から賃上げの派手な話題が続いていますが、大半の中小企業はそのような対応はできませんし、するべきでもないでしょう。それよりもこれからは、昇給に原資を振り向けざるを得なくなります。しかも継続してです。
 そのためには、「賃金水準」だけでなく「賃金の見せ方」が重要になると言えるでしょう。つまり、賃金・人事制度です。また、人事制度の中心課題として「コミュニケーション」を置くことといえます。

🎤 Photo_20250112094201 今年は暮れから冷え込んだものの、穏やかなお正月となりました。イラストは穏やかな泉南の小さな漁港の係留された小さな漁船です。この季節、なにが漁のメインでしょうか。近くの市場には舌平目などが並んでいましたが、船に吊ってあるのはその網でしょうか。夏にはガッチョ(テンコチ)をよく買って帰って、ビールのつまみにから揚げにしたものですが。

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2024年11月15日 (金)

五百九話 戦力の離職

 人材の流動化が言われる中でも、これまでほぼ横這いだった新卒の離職率もここへ来てじわりと上がって来ていますが、この新卒の早期離職もさることながら、最近は勤続5年、10年などのベテラン社員が不意に退職する例が増えて来ました。しかも、「辞める者は仕方ない」と簡単に諦められる人ではなく、バリバリの戦力だったりするものですから、採用がままならない中でダメージは大きいといえます。
 ベテランの退職理由はもちろん様々ですし、本当のところはよくわからない訳ですが、事例を並べて客観的に推察すると、これほど転職サイトが浸透した状況下にあるために、多くはちょっとしたきっかけがトリガーになり、踏み出してしまうように思われます。つまり、理由は上司との些細な行き違いや現場のちょっとしたトラブルなどで、全てではないにしろ、早めに手立てしていれば防げたケースが多かったであろうということです。
 これはコミュニケーションの問題に他なりません。少人数の職場や会社はコミュニケーションがとれていると思うのは間違いです。コミュニケーションの必要性は人数に関係ありません。たとえば、「現場のベテランAさんのやる気が落ちてる理由をリーダーは聞いていたが、そのままになっていた。部長や社長が知っていたら、おそらくAさんの退職はなんとかなっていた。」というようなケースはよくある話ですが、これは普段のコミュニケーションについての問題といえます。大切なのは「仕事についてのコミュニケーション」であり、「1対1のコミュニケーション」です。すなわち、「マネジメントの一つ」という認識です。
 多くの中小企業は管理監督者のマネジメントに「リーダーシップ」を期待し過ぎます。また、管理監督者は「リーダーシップ」を「引っ張って行くこと」と思いこみ過ぎです。それよりも会社は管理監督者に「仕事についてのコミュニケーション」を教えることです。
 そして「仕事についてのコミュニケーション」の鍵は二つです。一つは「話を聞くこと」、もう一つは「共通のことばを持つこと」です。


 


 

 

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2024年9月17日 (火)

第五百八話 長期清算型賃金

 日本の賃金はこれまでどちらかと言えば長期清算型で、日本以外の賃金はずっとどちらかと言えば時価型のJOB型賃金です。このところ、日本の長期低迷はこの日本型賃金、日本型雇用に目を向けられ、早期のJOB型雇用への転換などが趨勢のようで、日本の人事システムはどうもあまり人気がありません。
 確かにIT関係の分野などには、日本型賃金が適合しているようには見えません。今必要なハイスキル人材の採用次第で勝負がつくような分野は時価型賃金による雇用の流動化が必要でしょう。衰退産業から成長産業への人材の移動やより相応しい仕事へ職務と人材のマッチングにも日本システムは適していないかもしれません。けれども、まだまだ日本システムが活かせる分野もありそうです。
 たとえば、次世代エネルギーの代表として期待される核融合炉は、その開発で世界的な競争となりつつありますが、それに必要な部品の多くは日本の中小企業が提供しています。その部品は開発に10年とか30年とかかかるものが多く、欧米の企業は早くに諦めてしまったために、長期にじっくりと取り組むのが得意な日本の中小企業が残り、国内だけでなく世界から受託がはじまっています。
 人事システムは一つの企業の問題ではなく、社会基盤の問題です。一度失った社会システムは戻りません。日本が何を活かして世界にアピールするか、今まさに選択を迫られていると言えるでしょう。

✒うめきたPhoto_20240917133301 の開発も着々と進み、先週に「グラングリーン大阪」として先行街びらきがありました。27日に弊グループの関与先の親睦会を梅田スカイビルで行いますが、 36階の会場から写真のよ うにうめきたの全容が見渡せます。やはり、都心駅前の広大な芝生広場はインパクトがあります。大阪らしからぬといえば、らしからぬですが、上手く活かして欲しいものです。



 

 

 

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2024年9月 2日 (月)

第五百七話 就労の増加

 この10年間で生産年齢人口(15~64歳)は600万人程度減少しています。にもかかわらず、就業者人数は400万人も増加しています。これは、これまであまり働いていなかったゾーンの人たちが働き始めたからです。すなわち、女性と高齢者の就労です。この10年間における女性の25~34歳の就業率は約12ポイント、55~64歳では15ポイント以上も増加しています。男性の高齢者も60~64歳で約12ポイント、65~69歳でも12ポイント以上増加しています。
 これは急激な増加ですが、これにより社会保険の適用者の拡大と合わせて、年金財政は一息ついたはずです。
 また、この就業者数の増加は、継続雇用の推進、最賃のアップ、同一労働同一賃金、男女雇用機会均等法、育児休業など法規制整備等の政策の成果でしょうが、急激な人不足に平均寿命のアップなど、状況要因の影響も少なくないでしょう。とくに中小企業の頑張りによる雇用の拡大は見逃せないところです。それを考えれば、中小企業を支援する施策がもう少しあっても良いかと思います。最賃アップや社会保険適用事業所の拡大は止むを得ないとするならば、せめて人材を中小企業に振り向ける施策を充実させて貰えないかと思います。

✒ お陰様で新刊の71pvvpcgol_sy385_ 重版が決定しました。コツコツと売れているようで嬉しいかぎりです。中小中堅企業の現場のリーダーのための本ですが、このクラスはこれからますます会社の鍵となって行くでしょう。その人たちのちょっとした悩みをこの本は解決してくれるはずです。

 

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2024年8月 2日 (金)

第五百六話 最賃50円アップ

 政府から最低賃金の目安が発表されました。各都道府県一律50円アップが目安で、これから各都道府県で検討され10月までに決定します。おそらく、50円超えとするところはあっても、以下はないでしょう。人不足の状況で、人材が流出してしまいかねないからです。
 大阪府で現在の1064円が1114円となります。月間所定労働時間が170時間とすると、189,380円となり、正社員の高卒初任給はこれより上げないとならなくなります。50円は約5%の昇給にあたりますから、結局、順次賃上げが必要になって来ます。
 この対応策として、中小企業は、値上げか、生産性のアップで吸収するしかないでしょうが、すぐにできるものではありません。しかも、政府は2030年代半ばまでに1500円を目指すとしています。これを本当に実行するとなると、現在の最賃の全国平均が1004円、10月から1054円ですから、これから10年間、均等にしても毎年45円程度は上がることになります。
 このままだと中小企業の多くは、仕事のあり方を変えないとならなくなるでしょう。ビジネスモデルを根底から、考え直さなくてはならない会社も出てくることになりそうです。

日本列島は記録的な猛暑日が続いています。イラストは堺Photo_20240802142101 の旧灯台ですが、カンカン照りの陽射しから逃げる場所はありません。抜けるような青い空に白い塔は映えますが、ひたすら夜が来るのを待っているように思えてしまいます。


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