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2008年6月

2008年6月27日 (金)

十話「今年の夏季賞与と人事考課」

 夏季賞与の時期ですが、全般に景気は良くありません。というより、非常に悪いところが多く、特に中小企業はたいへん厳しいところが増えています。
 勿論、良いところも随分あり、そう云う所は逆に非常に良かったりして、格差は大きくなっています。ざっくり見ると、外需型のところは良く、内需型のところは悪いと言えます。
 中小企業では得意先がどちらかによって、明暗が分かれたりしています。同じ会社内の営業でも担当先によって業績の差が大きく違ってきています。
 通常、営業担当先は自分で決めることが出来ないでしょうから、運、不運とも言えます。当然、相手先が好調でも受注を決めてくるのはやはり本人の力量ですから、ある程度は本人の能力、努力の結果ですが、そうでない要素の方が圧倒的に多いのが現実と言えそうです。
 営業に運、不運はつきものですが、あまりにも自分の力でない部分で評価の大勢が決まってしまうと、不満のもととなり、モラールの低下となってしまい兼ねません。

 この問題にも次のような三つの点から、多くの会社ですでに対応が取られるようになって来ています。
 この15年くらいの間に「賞与=会社業績の按分」は中小企業に於いてもすっかり普通になりました。従って大前提として賞与額の全体枠が増えなければ、各人の賞与も大きくは増えない認識が定着しました。この点がベースでまず一点目。
 次に結果だけでなく対象期間のプロセスの評価にも重きを置くようになりました。今、主だった大手企業の考課表は成果主義一辺倒の反省もあって、ほとんどのところでプロセス評価が使われています。プロセスとは「仕事のプロセスの質」のことで、期間にどのような行動を取ったかを指します。中小企業にも徐々に広がって来ました。この点が二点目。
 三点目はミッション(役割)自身の評価も加えるところが出て来たことです。つまり前述の例なら担当得意先の事情(難易度や業績動向)も業績評価に加味されるようになりました。すなわち、業績の良くない得意先ばかり抱える担当者はその逆風係数を計り、加点するような意味のことを指します。
 この三つにより、担当先の違い等による人事考課の不公平感もかなり合理的に緩和されるようになりました。

関連内容を知りたい方は「はじめての人事考課100問100答 」(明日香出版社刊)『Q61,Q65,Q93』をご覧ください。

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2008年6月23日 (月)

九話「考課者訓練」

 賞与前5,6月と9,10月、昇給前2,3月に人事考課の研修の依頼が多い。特に時間を取って行う考課者訓練は比較的、秋に頼まれることが多い。
 季節的に研修のシーズンであるのと、どちらかと言えば、冬季賞与で差をつけるところが多いからかも知れない。
 大企業のアンケート調査などを見ると定期的に訓練をしている割合は高いが、中小企業では中々時間を取りにくく、そうも行かない。考課者である管理職自身が走り回っていて揃わないからだ。
 一回あたりの時間も短くなり、短時間効率型の研修を求められる。事前に会社から現状の問題点を聞くと、あれもこれもと出てくる。欲張って短時間に全部を盛り込もうとすると、結局、考課者が消化不良になってしまい、成果が上がらない。そのような失敗も幾度かした。
 従って、コンサルタントは問題点を見極め、訓練のテーマを絞ることが肝心だ。考課者訓練は一律には出来ない。会社に合わせて、ひとつ一つ前進し、継続することが実際には相手のプラスとなる。考課者訓練は考課者のレベルアップや目線を合わせる目的の他に、その会社の価値観を確認、共有できるなど、利用価値は一般に会社が考えるより大きい。そう考えて続けてきた。

 と言っても、はじめての依頼先はやはり難しい。事情が良く分からないからだ。会社からヒアリングしたり、使っている考課表や考課基準から当りをつけるが、実際に行ってみると考課者のレベルや問題点は結構違っていたりする事がよくある。そのような失敗も何回かした。
 失敗のお陰で勘がついた。事前に調べておくポイントやその収集の方法が整理できた。考課者訓練もやはり準備が大切である。最近ではそのような事前調査事項のワークシートも作り、はじめての会社においても効果的な訓練に結びついている。

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2008年6月16日 (月)

八話「『バイマーヤンジンさんの講演会』と『出版わいがや会』の日」

14日(土)は二つの会への参加で充実した一日となりました。
<その1>
 私の中学の同窓で友人の開成塾グループ代表の太田明弘さんからの招待にて、大阪吹田在住で「徹子の部屋」にも出られたチベット出身のオペラ歌手バイマーヤンジンさんの講演を聞くことが出来ました。
 太田代表がこれまで聞いた講演の中で最高の講演と冒頭で紹介されたそのものの内容で、感激しました。当日の大阪エルシアターのホールは塾の生徒と教育関係者が半々くらいのようでしたが、まさに相応しい素晴らしい内容だったと思います。
 彼女が寄贈されたチベットの小学校での子供たちの様子を絶妙なチベット訛の大阪弁で、面白可笑しく、わかりやすく、そしてパワフルに、日本の子供や社会との比較、両国が抱える問題へ収斂してゆく話しぶりは聴講者を魅了して余りあるものでした。
 日本が戦後、急速に短期間で経済発展したその要因と、その結果としての歪みと思える現在の問題及び現在のチベットが抱える問題について、何よりも「教育」に着目したその洞察力の凄さとそのことを語るトークの説得力には只々感服するばかりでした。
 これからわが国が取り組むべきことの一つを顕わにし、実践されているのだと思います。
 他国、異文化との比較、そのことが我々のアイデンティティを知り、進むべき目標を明確にすることを示してくれました。
それにしても講演の最後に披露されたチベットの歌の歌唱力は感動のダメ押しでした。
<その2>
 後ろ髪を引かれながら、講演会を途中退席し、明日香出版社の石野誠一相談役が主宰する著者及び出版を目指す人の「出版わいがや会」に出席しました。
 こちらも出版の最末席で多少とも関わる私としてはたいへん参考となった会でした。
 集まった方々はそれぞれの分野の専門家の方々ばかりで、その族が本を出そう、つまり密かにテーマを持って「何か打ち出そう、やらかそう」という訳でわいがや集まっているのですから、面白くない筈がありません。
その中から人事に関連した話題をひとつ。
大学の講師をされている方、不動産に関わる方、キャリアコンサル関係の方たちとの話の中で「今の若い人で仕事に対して何をしたいか、何も持っていない人がまだまだ多い」というようなことがあがりました。私も同様の感覚です。
 一般には若者のキャリア志向が言われていますが、確かにそのような人たちは増えてはいますが少数派で、自分がやりたい仕事が明確な人、何歳までにどのようなキャリアを積んでこういうプロフェッショナルなりたいと考えている人はまだまだ一部だと思います。
 ただ漠然と会社に入社する人が大半というのが実際です。また会社の方もキャリア志向、自立志向の人ばかりよりも、そのくらいの方が良いというのが本音かも知れません。
 帰り際に話をした学校の先生も「学校で教えていることと会社が求めている人材のギャップがあり過ぎますね。」と仰ってましたが、正確にいうと学校も会社も人材像を持っていないのでギャップそのものが良く分からない、というのが本当ではないでしょうか。
 いずれにしても人材の教育はこれから人事の主要テーマに益々なって行くことでしょう。
参加の方々もたぶん、人材教育をビジネスのヒントとして捉えているに違いありません。。

 奇しくもバイマーヤンジンさんの講演とわいがや会が「教育」というテーマで繋がり、思いをめぐらせた一日でした。

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2008年6月12日 (木)

七話 新刊「なぜ会社は大きくすると潰れるのか」

 わたしの本の出版でお世話になり、また私どもグループの経営者の会でも講演を頂いた明日香出版社相談役の石野誠一氏の薦めで「なぜ会社は大きくすると潰れるのか~年商43億円の建設設備業者 その勃興と自己破産から学ぶべきこと 」(不破俊輔 明日香出版社)を読みました。帯には「どうなる!どうする!『会社破産』の教科書」とあり、中小企業の倒産の赤裸々な内容で、沖縄研修(六話)の後の福岡日帰り出張の新幹線で一気に読み込みました。
 中小企業の経営者の考えが本当によく分かる本です。筆者はNHK「クローズアップ現代」で低迷する北海道経済の特集にも出演されていて、北海道でナンバー2の建設設備会社の倒産の経緯と経営者としての心情が生々しく語られたドキュメンタリーとして綴られています。
 経営はきれいごとではないことを実感するには迫力と説得力で勝る書はない経営者必読の書ではないでしょうか。

 文中から人事に関連して、わたしが印象に残ったフレーズを幾つかご紹介します。

○ 部下は会議のルーチンから踏み出すことはめったにない。
○ 組織を作ることは金がかかって大変なことだが、経営者の楽しみはそれを作っていくことにもある。
○ 人事が経営の要であることは論を待たない。しかし私は60歳を過ぎて人事および人を見る眼の難しさを思い知った。
○ 企業を急に伸ばすと資金はおろか、人材も追いつかなくなる。
○ 資金がアッパーカットだとすれば、人材はボディブローだ。後から必ず効いてくる。
○ このように人事は難しい。難しい上に人は変化する。
○ 息子が中小企業の担保なのだ。見方を変えれば息子は企業の人質だ。
○ 経営とは信用を増幅する絶え間ない努力

などなど、実際に中小企業の人事コンサルでのわたしの経験からも、痛切に感じ、納得する部分が他にも随分とありました。

 文中、社長である著者と専務である長男の関係、葛藤が前編通じて描かれ、本書のもう一つの軸となっています。どこにでもある中小企業の親子関係、後継問題を写していて、その点でも読んで頂きたい一冊となっています。

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2008年6月 9日 (月)

六話 「沖縄米軍基地訪問」

 この6、7日に弊社が加盟する日本人事総研の沖縄研修があり、米軍基地に入れるというので急遽、予定をつけて参加しました。
 県庁での女性副知事との観光とIT産業の政策についての勉強会、石油関連企業訪問、それから米軍基地と充実の研修ツアーでした。
 何度か来ている沖縄ですが、地域特性を最大限に活かすしかないという経済戦略としての方向性のコンセンサスがほぼ揃ったように思われる点で、今回がこれからの可能性としての熱気を最も感じました。
 実際、県として現在も今後予定分も経済施策は積極的です。稲嶺前知事からの現実路線が定着し、実を結びつつあるのと、最もアジアに近い地理的利点が生かせる時代になったからなのでしょう。それと人口が増加している県では東京、神奈川についで3番目で、29歳以下の若年者比率は全国一です。
 IT関連企業の進出は昨年が162社でこの10年毎年20%以上伸ばしています。これまで沖縄のITと言えばコールセンターのイメージがありましたが、ソフト開発、データストック拠点など中身は思った以上に多様化しています。
 またちょうど行っている間の新聞に日本カジノ構想が載っていて、その候補地の一つに沖縄があげられていました。問題は多々あるでしょうが可能性としては一番の有力地なように思われます。
 このように特異な面を多く持ち、県としてはこれまではハンディとして捉えていたものを、逆に差別化をはかる材料として積極的に活用、アピールして行こうという姿勢が見られます。
 その特異面で最たるものが県面識の10%を占める米軍基地でしょうが、今回は兵站基地のキャンプ・ザ・キンザーをガイドつきで案内して貰いました。
 基地内は一切撮影禁止でバスで一通り見た後、基地内のクラブハウス(OFFICERS EBB TIDEとありますから、退役士官用でしょうか)で簡単な説明会がありました。
 説明ではやはり沖縄の地理的重要性、特に対中国を強調していましたが、確かに中国の近年の軍事予算18%の伸びは過度の拡大であり、防衛費を減らす日本としては脅威としか言えません。でもデリケートな基地問題は県外者が簡単にどうのこうの言えるほど単純ではありません。
 説明会の後は昼食となり、予想通りのでかくてぶ厚いステーキと山盛りのポテトでした。椅子やテーブルはアメリカ版クラシックのゴージャスな感じで、ハウス内にはバーが幾つもあり、70年代米国映画にあるような雰囲気が少し味わえました。

 春先から関与先の会社の慰安旅行が沖縄というのがすでに3社もあって不思議だったのですが、旅行会社がすすめるそのバックには県の観光計画があったらしいことに少々納得した次第です。

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2008年6月 6日 (金)

五話「知人の名文から」

 わかりやすく、気負わず、簡潔で無駄なく、それでいて深く心に残る。そのような文章を書きたいと思っていますし、そのような名文に出会えれば何ものにも替えがたい至福の時間をもたらしてくれるものです。
 朝日新聞の「声」欄に載った、「娘が国際結婚、初のドイツ旅行」(2月5日)と「かしわもちに浮かぶ母と師」(5月2日)は短いコラムですが、まさしくそのような名文でした。
 寄稿者は私の恩人で元銀行マンの勝山直人氏です。
 わずか450字程度の文字数の中に何気ない情景と筆者の気持ちが無理なく淡々と描かれているにも拘らず、読む者に新緑の野山を歩いたようなすがすがしい感情を与えてくれるエッセイとなっています。
 一つは娘さんの国際結婚で初めてドイツを訪れた話、もう一つは作者の故郷、長野の田舎の話。この二つのコラムを読んでいるとまったく別のことが書かれているけれども何故か繋がっている感覚を覚えます。
 二つの情景は筆者の眼を通して同質のやさしい風景となっています。それは筆者がドイツと言う異国の初めての地においても「気負い」や「構え」がなく、子供たちのマナーに感心し、改札もない駅に素直に驚きを表しているからでしょう。人の温かさというのはフィルターを通さなければ、ドイツを長野の田舎も同じものだと言うことを伝えています。
 それにしてもグローバルな世界はわれわれの身近に、日常生活にもうすでに深く入っているのだとあらためて認識させられます。
このコラムを読まれたい方はご一報ください。

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2008年6月 2日 (月)

四話 「学歴格差」

 5月28日の日経に筑波大の吉田あつし教授が近年の私立中進学熱の高まりに関して、ゆとり教育がもたらした公立不信等の他に、学歴による賃金格差拡大をその要因の一つに挙げています。
 確かに現在の世間相場、高卒初任給16万円と大卒初任給20万円の格差4万円は能力主義、実力主義、成果主義のどれから見ても大き過ぎると言え、実際に賃金設計においては、高卒給与を4年で大卒に追いつかせるには昇給のリスクが有り過ぎ、学歴格差、つまり学歴主義がどうしても30歳くらいまでは残ってしまいます。
 この不公平感を肌で感じて来た親の世代が私立中進学熱に遡ると吉田教授は分析していて、格差の固定化、階層固定化へつながると警告しています。

 外資系、特に欧州系の賃金制度に携わると分かるのですが、欧州の多くは程度差はあれ、労働が階層化されていて、単純労働で入社したものは管理職にまず上がれません。外資系経営者もその点では、誰でも管理職に上がれる日本の方が良いシステムだと言っています。
 但し、日本のシステムは良い意味でのエリート意識を希薄にしたのも事実でしょう。JFA専務理事の田嶋幸三さんも「言語技術が日本のサッカーを変える」(光文社)の中でなかなか世界に通用しない日本サッカーの体質の一因をそう指摘しています。

 格差の固定化、階層化は避けるべきですが、能力主義、実力主義による格差は必要ですし、同時に良い意味でのエリート意識の醸成はこれから必要と思われます。
 社会を階層化せず、しかもエリートを醸成する、この相反する課題を日本システムは迫られていると言えるでしょう。多分、答えは企業のこれからの賃金・人事制度にかかっている筈です。
 人事コンサルという仕事をしていると、少人数の会社の人事制度も必ず社会システムと繋がっているんだということをいつも再確認させられます。

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