九十七話 「インセプション」
学生時代に観た仏映画「去年マリエンバートで」は印象的でした。宮殿のような豪邸に住 む美麗の夫人が、ある夜の晩餐会で訪れた男に「去年マリエンバートでお会いし、約束しましたね。」と声をかけられることから始まる話です。絵画のような美しい映像が醸し出す、去年マリエンバートで約束したのは本当かどうか、わからぬままに記憶と現実の境界が曖昧になって行くシュールで難解な映画ですが、白黒の画面とあいまって忘れられない夢を見たような感覚がいまだに残っています。
渡辺兼が出演の最新映画「インセプション」はこの「去年マリエンバートで」のアイデアを使ったのではともいわれています。映画としてはまったく別物としか言えない代物(こちらはとてもわかりやすい)ですが、「インセプション=植え付け」というテーマは確かに同じ発想です。まるで本当にあったかのように記憶を植えつけるという共通したコンセプトが見えます。
この映画は超エンターティメント大作ですが、「インセプション」というテーマは興味深いので、専門分野の「人事」にこじつけて、仮説を立ててみます。
ドラッカーは「終身雇用、年功制、定期採用などどれをとっても、これから先も有効に機能しているシステムかどうか は甚だ疑問だ」というようなことを書きました。確かにこれまでは、日本システムといえるこれらの方法で日本は成功しましたが、そのスタートは何だったか、なぜ日本だけが世界と異質な制度なのか、これらは本当に日本的特性なのかどうかをもう一度よく検証する必要があると言っているようです。
そこで、仮説です。次のシステムの中で「インセプション」されたものがあります。それはどれか。終身雇用、年功制、定期昇給、定期採用、成果主義・・・。
映画「インセプション」では夢か現実かを確かめるすべとして小さな「コマ」がでてきます。デカプリオ演じる主人公はその「コマ」をまわしますが、日本はいまだまわしていません。「コマ」をまわそうか、どうかと逡巡したまま20年たちました。そろそろ、覚悟を決めてまわす時間です。まわすのはたぶん「社会」ですが、この「コマ」の発想はわれわれにも役に立ちそうです。何がそれぞれのリアリティか、自分の「コマ」を持ち、まわしてみることがこれから大切になるはずです。
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