百九十五話 ケース・スタディをつくる
コンサルティングのツールとして、ケース・スタディをよく利用します。考課者訓練やマネジメント研修、説明力の学習などに多用します。具体的な事例で考えるのがとっつきやすく、理解しやすいからです。いずれにしても、そのときのテーマに応じた内容が必要ですので、たいていは一からつくることになります。
ケース・スタディをつくる場合に、テーマにたどりつくのは勿論のこと、対象者の理解力や関心の方向、テーマと外れた問題点の浮上など、様々な要素を考慮します。その中で、良いケース・スタディ問題の要件の一つが、「リアルにイメージできるか」というものです。あたかも実際に起こりそうな、或いは身近にありそうな話は、興味をそそるものです。話を組み立てて行く場合に、様々な要素を入れるとリアルになりますが、整合性があまく、矛盾が生じると、その虚構の世界は一気に崩れ落ちてしまいます。以前に紹介した夢を作って入り込むという映画「インプレッション」でも、夢の中のディティールが甘いと夢とばれてしまうシーンがありましたが、あれと同じです。
その虚構の世界の組み立てに参考になるなと思うことがありました。先日、昔から贔屓にしているj桂雀三郎さんの落語会に行きました。お客さんの入りもたいしたものでしたが、なるほどと頷けます。聴くたびに芸が凄くなっています。もう名人の域ですが、名人とそうでない人との違いは、一つにはその虚構の世界のできの違いに思えます。名人の話は、聴き手がその虚 構の世界に違和感無く、いつの間にかすっかり入り込んでしまいます。登場人物が語ったり、しぐさをするだけなのですが、その背景まで見えてきます。なにげない動作のリアリティやディティールのぎりぎりまで要約した説明、メリハリある登場人物の入替わりなど芸がきっちりしているのと、その上に人物に個性を持たせているからでしょう。どっちの方向に走っているのか、誰が喋っているのかわかりにくければ、虚構の世界はたちどころに崩れてしまいますし、出てくる役者がだいこんなら、薄っぺらい世界になってしまいます。
ケース・スタディもディティール、整合性、わかりやすさの上に名優を登場させたいですね。名人の域にはまだまだです。
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