二百八十九話 億の買い物
ラジオでバイオリンニストの千住真理子さんが、ストラディヴァリウス購入の秘話を語っていて、余りにもその奇妙な話に、母親の千住文子さんが書いた「千住家にストラディヴァリウスが来た日」を早速、購入しました。内容は、末娘の真理子さんへの一家の心温まる応援歌なのですが、わたしは、けっして大金持ちではない慎ましやかな芸術一家が億単位の買い物をする決断とその方法に非常に興味を持って読みました。
名器ストラディヴァリウスは未だに解き明かされていないその音色と数が限られていて減る一方なのとで高価であり、プロなら一度は弾いてみたい、所有したいバイオリンです。
中でも千住家が手に入れた「デュランティ」は、ローマ教皇クレメンス14世に捧げられ、逝去後は側近、フランス貴族、スイスの大富豪へと渡り歩き、300年間弾かれずに眠っていた幻の逸品です。それが大富豪の遺言で売りに出され、世界の5人の著名バイオリンニストに購入する権利が渡されます。
そこから運命の物語が始まります。千住真理子さんは4番目でしたが、1,2番はそれぞれの事情でスルーし、3番目はパトロンがついているバイオリンニストで、「決定間違いなし」です。逆にほっとしていたら、そのパトロンが欲を出し、即金で払うからと値切ったせいで「デュランティ」を所持するに相応しくないとなり、とうとう真理子さんのもとに届いてしまいます。顧問の会計士からも「今、こんな買い物をすれば、千住家は破綻します」と言われていたし、購入などとんでもないと思っていましたが、コンサートで試し弾きできることとなります。実際に弾いてみるとたちまちその魅力に一家は憑りつかれてしまい、そこから会計士まで巻き込んで、金策に奔走することに。
そのような話なのですが、驚くのは普通の家庭で億単位の買い物ができるということです。詳細は書かれていませんが、おそらく生保やらを使ったり、家や土地を担保にしたことでしょう。でも大きな要因はやはり比類ない高額な名器であるがゆえのようにも思われます。ストラディヴァリウスにまつわる逸話が多い所以です。
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