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2015年12月

2015年12月28日 (月)

二百四十六話 完全雇用状態

 総務省の発表では、10月の失業率が3.1%です。これは20年ぶりの低い数字で、また12月の日銀短観の雇用判断DIは△21の「不足」となりました。こちらは、92年の6月以来という高い数字です。多くの専門家が、すでに日本は完全雇用状態に入っているといっています。そして、第一生命経済研究所によれば、完全雇用状態により、正社員の賃金圧力がさらに高まるということです。
 これまで、たとえば飲食や介護などのサービス業では、コスト上昇分の客単価を上げられず、その分を非正規社員の増加でカバーしてきました。しかし、4割を占める非正規比率からすると、その代替もかなり限界だというのです。そうなると、より正社員の賃金は上がる方向に向かわざるを得なくなりるというわけです。来春は、業績好調の大手の上からの主導とともに、下からの賃上げが本格化するかもしれません。
 そうだとすると、中小企業はたいへんです。このことを前提にヒト対策を講じなければならなくなります。自動化、ロボット化、IT化も一段と進むことでしょうし、これからの人事のテーマは、一人当たりの生産性をより高める人事諸策が中心となるに違いありません。現場は、多能化と専門性の両方を深め、バランスさせる必要に迫られます。より、マネジメントに力を入れなければならなくなるでしょう。特に現場リーダークラスの役割が大事になりそうです。

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2015年12月20日 (日)

二百四十五話 資生堂ショック

 女性が働きやすい会社として知られる資生堂は、25年も前から育休制度を導入し、91年には1日2時間の短時間勤務制度、07年には時短勤務者がいる現場をカバーする「カンガルースタッフ制度」の導入など、常に法定以上の両立支援を整備してきました。成果はすぐに表れ、11年には育休の時短勤務者は1000人を超え、10年で約3倍に増えました。国が推進する「育児と仕事の両立」のまさに模範的な企業だったわけです。ところが、時短勤務者が一気に上昇した07年あたりから業績が下降し始めます。06年から14年までに約1000億円の売上ダウンとなりました。その一因を会社は、「現場のひずみ」にあると捉え、ついに改革のメスを入れます。
 業績を第一線で担う美容部員のかきいれどきは夕方5時以降と土日です。そこは育休の時短勤務者が休みをとりたい時間帯と重なります。時短勤務者が抜けたしわ寄せは、他の美容部員にまわります。「遅番、土日のシフトで負担が大きい」「子育て中の人ばかり優遇されるのは不公平」など、他の独身の美容部員等の不満が増大し、一致協力して接客にあたる現場などとはかけ離れていったわけです。そこで、14年4月から「シフトは会社が決めるもの」を明確にし、時短勤務者も原則、遅番、土日シフトに組み込む、1日最低接客数18人といわれるノルマも他の社員と同様にもつなど、「負担の平等化」に方針を大転換しました。当然、時短勤務者の不安や不満、様々なところからの批判もあがりました。この制度改革のために会社は周到に準備をします。現場の実情調査から議論を重ね、営業部長による面談やフォロー、改革の理由と目的のDVDの配布などをきめ細かく実施しています。結果、時短勤務者約1200人のうち、退職者は30人にとどまり、まずまずのスタートとなりました。
 この資生堂の育児を「聖域」としない働き方改革は、「女性が働きやすい会社」の第二ステージといわれています。制度というものはつくるだけではなく、常に現場と擦りあわせながら、試行錯誤が必要ということでしょう。また、どのような人事制度も、該当者だけでなく、影響を受ける他の社員はもちろん、「顧客にとってどうあるべきか?」という基本ともいえる視点を忘れてはいけないことをあらためて教えてくれています。<数字等のデータは日経、NHKニュースより>

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2015年12月13日 (日)

二百四十四話 中小企業の賞与

 大手の冬の賞与は日経の集計で、全国3.3%増、関西でも3.3%増の伸びです。とくに製造業が良く(関西で4.23%増)、牽引しています。中小企業については大阪シティ信用金庫の調査で見ると、一人当たりでは0.56%の微増(額は276,025円)ですが、支給した企業割合は57.6%と、0.7ポイントの4年ぶりの減少となっています。このデータは関西の20名以下の中小がおよそ8割を占める調査ですので、大手と較べて中小はぱっとしない状況が見てとれます。とくに、小売りが悪く、支給した割合は34.8%です。爆買などインバウンド効果も小売では一部の企業に留まり、広がりを見せていないと思われます。反面、サービス業は広く恩恵を受けていることも一因でしょうか、61.2%と良くなっています。
 このように賞与を見ても景気は業種によってかなり格差があります。三つのバズーカといわれる、インバウンド、東京オリンピック、TPPの爆風も大手のみならず、中小にも拡散して欲しいものです。消費増税と最低賃金上げの風圧だけが届いたのでは納得がいきません。来年あたり、そろそろ期待できるでしょうか。

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2015年12月 6日 (日)

二百四十三話 電子立国はなぜ凋落したか

 日本の電子産業の生産金額は今や2000年ピーク時26兆円の半分以下です。かつてあれPhotoほど電子立国とまで讃えられた日本の電子産業がなぜここまで凋落してしまったか、その疑問に「電子立国は、なぜ凋落したか」(西村吉雄著、日経BP社)が一つの答えを教えてくれています。結論から言えば、日本大手メーカーの垂直統合型の体制が、アップルや鴻海、LG、小米などのEMSというグローバルな水平分業型企業に敗れた、というかなれなかったからと、この本は書いています。EMSというのは、直訳すると電子製品の「製造サービス業」で、あくまで「製造業」に拘った、パナソニック、日立、東芝、シャープ、ソニー、NEC等が敗れたという訳です。
 
もしそうだとすると、現在も何ら変わっていないわけで、日本の凋落は止まらないことになります。ではなぜ、垂直統合型から変われないのかですが、この本では成功体験や「製造業」という固定観念、プライドとしています。そこには、なにか「サービス業」を低位に見ている体質があります。この大きく変化する時代にそれでは勝てないでしょう。
 わたしは、それに加えて日本の人事制度も大きく影響していると思っています。「製造業」が「企画・設計」と「製造」を切り離すことができないのは、「雇用の流動化」があまりにもなさ過ぎるからというのが下地としてあるように思います。でも、この「雇用の流動化」も定期採用、定昇、終身雇用、年功処遇、総合職メイン制、社内組合と、これらがセットでがっちり噛み合っていて、簡単には進みそうにありません。電子産業に限れば、当面日本は部品産業で存在感を高めるしかなさそうです。

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