二百四十五話 資生堂ショック
女性が働きやすい会社として知られる資生堂は、25年も前から育休制度を導入し、91年には1日2時間の短時間勤務制度、07年には時短勤務者がいる現場をカバーする「カンガルースタッフ制度」の導入など、常に法定以上の両立支援を整備してきました。成果はすぐに表れ、11年には育休の時短勤務者は1000人を超え、10年で約3倍に増えました。国が推進する「育児と仕事の両立」のまさに模範的な企業だったわけです。ところが、時短勤務者が一気に上昇した07年あたりから業績が下降し始めます。06年から14年までに約1000億円の売上ダウンとなりました。その一因を会社は、「現場のひずみ」にあると捉え、ついに改革のメスを入れます。
業績を第一線で担う美容部員のかきいれどきは夕方5時以降と土日です。そこは育休の時短勤務者が休みをとりたい時間帯と重なります。時短勤務者が抜けたしわ寄せは、他の美容部員にまわります。「遅番、土日のシフトで負担が大きい」「子育て中の人ばかり優遇されるのは不公平」など、他の独身の美容部員等の不満が増大し、一致協力して接客にあたる現場などとはかけ離れていったわけです。そこで、14年4月から「シフトは会社が決めるもの」を明確にし、時短勤務者も原則、遅番、土日シフトに組み込む、1日最低接客数18人といわれるノルマも他の社員と同様にもつなど、「負担の平等化」に方針を大転換しました。当然、時短勤務者の不安や不満、様々なところからの批判もあがりました。この制度改革のために会社は周到に準備をします。現場の実情調査から議論を重ね、営業部長による面談やフォロー、改革の理由と目的のDVDの配布などをきめ細かく実施しています。結果、時短勤務者約1200人のうち、退職者は30人にとどまり、まずまずのスタートとなりました。
この資生堂の育児を「聖域」としない働き方改革は、「女性が働きやすい会社」の第二ステージといわれています。制度というものはつくるだけではなく、常に現場と擦りあわせながら、試行錯誤が必要ということでしょう。また、どのような人事制度も、該当者だけでなく、影響を受ける他の社員はもちろん、「顧客にとってどうあるべきか?」という基本ともいえる視点を忘れてはいけないことをあらためて教えてくれています。<数字等のデータは日経、NHKニュースより>
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