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2023年3月 3日 (金)

四百九十話 日本の賃金はなぜ上がらない

 今年の春闘の賃上げ予測は定昇+ベア2.7~2.8%といったところです。昨年の2.2%(厚労省)からは0.5~0.6ポイントの大幅アップですが、それでも先進国中では円安もあって最低水準は変わらないといわれています。日本の賃金が低い理由に専門家の多くは「生産性の低さ」をあげています。企業は「上げたくても上げられない」というわけです。確かに大きな要因と思われ、海外に行くとサービス業などでも「質の割には高い」と思うことが多いのは事実でしょう。けれども賃金制度に関わっている立場からすると、「生産性の低さ」だけではないというのが答えのように思われます。
 わたしには日本の人事制度の特殊性が生産性と同じくらい大きな理由に見えます。現在、大手の定昇は平均1.6~1.65%くらいといわれています。月例給与30万円とするとおよそ5000円です。定昇といっても査定もありますし、月例給の凸凹で変わりますが、そのくらいは景気不景気にかかわらず、毎年ずっと上がっていることになります。このような国は他にないでしょう。諸外国はJOB型雇用で職務給がベースですから、定昇という概念は希薄です。個人で見ると、賃金が上がるのは、職務、つまり仕事をレベルアップするか、ベアしかありません。土俵が違いすぎます。
 賃金水準だけを見れば、日本の正社員の賃金は上がっていくので、それほど問題ないのです。問題は非正規、60歳以降、定昇がない中小企業の賃金が平均を下げている点が大きいことでしょう。非正規、60歳以降は、いわばJOB型職務給型ですが、残念ながら社会がJOB型職務給型の認識がないために上がる圧力が希薄です。最低賃金と需給ギャップくらいしかありません。よって、生産性が低いから上がらないのではなく、生産性が低い業務に非正規、60歳以降をあてるということになってしまっていることが問題といえそうです。
 ポツポツですが、大手企業にJOB型導入の動きがあります。グローバルに人材を獲得するには当然といえます。JOB型雇用の対極は日本が発明した総合職雇用です。総合職に定昇も定期採用も整合しています。このメリットの多い総合職を日本社会が捨てるとは考えにくいので、総合職制度をより活かす観点からJOB型を取り込むことになるでしょう。そのかたちはまだまだ見えませんが、いずれ「仕事による賃金差」が普通になるはずです。その引き金をひくのは、賃金水準の統計データになるでしょう。厚労省の職種別賃金などではなく、仕事別規模別地域別熟練度別などのデータが公に出てくるに違いありません。そのようなものを目にするようになったら、人材の逸失防止にいよいよ中小企業は構えることになるでしょう。

 

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